実家奮闘記3




『なんか、ばーちゃんが帰ってくんなって言ったらしいで』



 オヤジからの答えはいたってシンプル。
 受け入れ先である母方の祖母、つまりオカンのオカンに断られたそうな。
 正直、耳を疑いました。
 はっきり言って一心同体とも呼べるほど仲の良い二人。なのにどうしてばーちゃんはオカンを拒絶したのでしょうか。




『お前は別に何も悪いことしてへんのやから、ちゃんと話し合ってみろゆーことらしいで』




 いや……ソレはちょっと語弊があるような……。口ゲンカとはいえ一応真っ向からぶつかったわけですから。弟に裏切られたオカンにしてみれば、私にも裏切られたも同然。なので突き放すのは別に不自然なことではないと思うのですが……。

 で、電話を切り。しばらく釈然としない思い。
 だってオカンは結局ばーちゃんの一言で意見を逆転させてしまったとはいえ、一度『私に会いたくない』明示したのですから。



 非常に顔を合わせづらいです。



 最初から何も聞かなかった方がどれだけましか。


 そしてそのまま何日か悶々した日々を過ごした後、私は意を決して電話しました。
















 ばーちゃんに。
















 どういう意図でそんなことを言ったのか。
 すると一言。















『アンタは素直でええ子やん』














 なぜか褒められた。

















 が、コレが向こうのであることは百も承知です。
 弟がオカンから離れてしまって今、せめて私だけでも仲を戻そう。



 子を思う親心。



 つまりはそう言うことなんでしょう。
 正直、何だかこんなことを考えてしまう自分自身がちょっと嫌になったりもしますが、ココは重要なところです。ひょっとすると人生の転機かもしれません。
 『家族』と完全に疎遠となるのか、あるいは――

 で、私の聞きたかったことはソレだけなんですが、ハイサヨウナラと切ってしまうのもさすがに薄情な気がしたので、その後も少し喋りました。まぁホント数年ぶりの電話でしたからね。
 するとまぁ、当然話はの方に向かうわけでして。
 やはりばーちゃんも弟の悪口を垂れまくり。
 やれ親不孝者、やれ恩を仇で、やれ「昔っからあの子は――」。果てには犯罪者とまで。
 いい加減ムカツイてきたので私はハッキリ言いました。















「弟に期待しすぎや」
















 と。


 オカンにしてもばーちゃんにしても、ようは弟に期待しすぎなんです。
 確かに弟は優秀でした。
 交友関係も広かったし人望もあったし。頭も良くて東大に現役合格、あっさり弁護士資格を取得。そして話す内容は全てがネタになるほど面白い。

 ほぼ完璧じゃないですか。
 今まで周りの期待に応え続けてきたじゃないですか。
 そしてそれ故に病を患ったではありませんか。
 そうです。
















 躁鬱病です。
















 天才肌の人間というのは往々にして内面が脆い物なんです。
 一度小さな亀裂が入れば、そこから致命傷にまで発展するんです。
 だから別に良いじゃないですか。





 一度くらい期待を裏切ったとしても。






 結婚というのは間違いなく人生の転換期です。ソレを周りの期待だけに沿って決めるなんて、そんな馬鹿げた話はありません。この人しかいないと心に決めたのならソレを貫き通すべきです。その人が躁鬱病の時の支えになってくれたというのであれば尚更。
 ですが周りは自分達の期待を一方的に押しつける。

 10できたんだから50もできるばずだ。
 50できたなら100も簡単。
 100の次は1000、その次は5000、10000。

 期待というのは加速度的にふくれ上がります。
 その肥大化した期待に応えさせ続けようとするのはあまりに身勝手、親のエゴではないでしょうか。
 弟の結婚問題が出てきてからというもの、私はずっとそう考えてきました。
 そして誰もソレに対して納得のいく答えを示してくれませんでした。





 「まだ子供だから」





 「世間を良く知らないから」





 上から目線でコチラを否定するばかり。

 ですが、今回ばかりは違ったんです。



















『子供に期待せん親はおらん。親は子供が全てや。子供ができたらその子の人生が自分の人生になるんや』



















 …………。















 ……なんというか、その言葉は妙な説得力を持っていました。
 理屈とか論理とか、そういうややこしいことは抜きでストレートに来ました。
 ソレはまだ子供を持ったことがない私にでもはっきり分かるくらいに。

 確かに、そうかもしれません。
 子供とは自分の分身。腹を痛めて生んだ母親なら、その思いは更に強いでしょう。
 それまで周りは弟に期待しすぎだとばかり思っていましたが、期待して当然だと言われた時に言い返す言葉が出なかったのは衝撃でした。

 ばーちゃんとの会話も気が付けば一時間以上。
 最後に『電話くれてありがとう』と言われて通話を終えました。
 その後、私は天井をほーっと見ながら考えてました。
 やるなら今しかないと。
 今のこの気持ちの勢いに乗せなければ絶対にできないと。
 私はまた電話しました。



 相手はオカンです。



 私の声を聞いた時、相手は凄く驚いていました。
 当然でしょう。私もびっくりです。こんなに素直になれたのは生まれて初めてのような気がします。
 私は言いました。

















「あぁ……悪かったな……」
















 この一言。
 この一言を出せるのは今を除いて絶対にないと思いました。次の日、一旦冷静になった後では、またつまらない意地がわき出てくるでしょうから。








『アンタ……アンタなんでそんなこと言ってくれるん?』








 電話の向こうのオカンはちょっと涙声でした。
 話を聞いているうちに、オカンもあの時の勢いに乗せた暴言は失敗だったと思っていたことが分かりました。互いに意地になっていたというのはよくある話です。

 そのまま軽く近況報告などをした後、電話を切りました。
 オカンの声は比較的明るかったですが、最後に、「やっぱり弟は許せない」と言っていました。

 私はそれで良いと思いました。
 互いの主張があってソレがぶつかり合って、どうしても妥協点を見出せないのであれば、もう別離するしかありません。
 ソレは理屈とかではなく感情の問題です。
 自分の気持ちを納得させられるかどうか。その時に納得できないのであれば、あとは時間が解決してくれるのを待つしかありません。














 ――と、まぁそんな感じで。
 まだ若干ぎこちないながらも私のオカンとの確執はほぐれ、私は堂々と実家帰りするチケットを手に入れたのです。

 で、ココで終わればイイハナシダナー(;∀;)ということになるんでしょうが、そうは飛乃クオリティがおろしません。
 次回の帰省編は良い話をぶち壊しにしてくれる奴が登場します。










 その名はオトン。












 お楽しみに。


















 (ω)アンタも色々大変ね。

 ……あんのクソハゲオヤジ。


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