闘病記2008 其の壱

 11月10日 月曜日 快晴
 午後3時。
 私の中の歯車が一つ、その動きを止めた。







 体がダルい……。
 最初は本当にソレだけだった。
 風邪をひいてしまったか……。
 軽い認識だった。

 風邪は引き始めと治りかけが一番重要。
 昔からよく耳にしていた言葉を思い出し、私は大事をとって仕事を上がった。

 午後4時。
 会社の最寄り駅に到着。
 寒い……。
 この時ほんの少しだけ、何かがおかしいかも知れないという思いがよぎった。
 だがすぐにソレを振り払った。
 病は気から。
 自販機で買ったのは温かいコーンスープではなく、キンキンに冷えたコーラ・ゼロだった。
 ちょっとした意地だった。体が冷えた……。

 電車の中、症状はどんどん悪くなっていく。
 ダルさが寒気へと変わり、少し痛みを伴うようになってきた。
 一体何が悪かったんだろう。
 私は先週のことを頭に思い描いた。



 月曜日の夜、部屋で一人酒を飲んだ。次の日起きると全裸で寝ていた。
 火曜日の会社帰り。無呼吸症候群のオッサンに力一杯せきを吐きかけられた。
 木曜日。『アバウト・ミー』と終電まで飲んだ。どうやって帰宅したのか、全く記憶になかった。
 土曜日と日曜日。せきがやたらと出た。しかし体の調子に問題はなかったので、二日で煙草を三箱開けた。



 分からない……。
 一体何が悪かったのか……。
 どうして今、こんな辛い目に遭わなければならないのか。
 とにかく病院で看てもらって、薬を飲んで早く寝よう。一日ぐっすり眠れば明日にはきっと快復している。

 そんなことを自分に言い聞かせながら、私は馴染みの内科に向かった。
 中は満員だった。
 受け付けで保険証を見せ、症状を簡単に伝えた。そしてどのくらい待つのかを聞いた。









「二時間くらい、ですね」














 少し殺意が芽生えた。











 多分、余裕が失われつつあるせいだろう。病気になると気弱になるものだ。しょうがない。
 別に無愛想な看護婦に対応されたからとか、そういう下らない理由じゃない。

 私は壁に背中を預けて待った。


 中は満員だった。


 みんなセキやクシャミをしていた。
 マスクをしている人は希だった。
 私もマスクをしていなかった。







 中は満員だった。










 そして丁度二時間後。
 良い感じに顔が火照ってきた頃、ようやく私の名前が呼ばれた。
 大分重くなった体を引きずり、私は診察室に向かった。
 相手はかつて胃カメラを見舞ってくれた先生だった。
 私は彼が苦手だった。理由は簡単。



「あ、単なる風邪ですねー」








 淡々とし過ぎているから。












 患者の立場に立って看てくれている気が微塵もしない。
 私が今どれだけ辛いかを訴えても、





「ま、熱がないから心配ないですよ。じゃあ薬出しときますんで、コレでしばらく様子見てください」













 お役所仕事。













 熱が出てからじゃ遅いからココ来てんだろーが、このダボがぁ。










 そう思いつつも私は彼の言葉を信じた。そして薬を貰っておとなしく帰った。
 なぜなら今のところ、この病院で出された薬は百発百中だから。
 私は薬の素晴らしさをこの病院に教えて貰った。
 だから今回も信じた。
 この薬を飲んで寝れば、次に起きた時にはきっと楽になっている、と。
 私は軽く夕食をすませて薬を飲み、ベッドに入った。そして部屋を暗くして目を瞑った。
 次に目を開けた時は、きっと――

 ――惨劇の幕開けだった。

 《続く》


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